仙台高等裁判所 昭和42年(行ケ)3号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕二、よつて原告主張の無効事由について判断する。
(一) 氏名掲示の抹消に関する主張について、
(1) 原告主張の請求原因第二項の(一)、(1)の(イ)の事実は当事者間に争がない。
(2) しかして、第三投票所の第一記載所において、午前九時三〇分以降午前一〇時四〇分頃まで候補者の氏名掲示のうち千葉盛の「千」の字の上方に「×」印、「盛」の字を抹消するようにその字の上に「×」印がなされていたことは被告の認めるところであり、右事実と<証拠>を総合すると、
(イ) 本件第三投票所で投票した選挙人の菅卯蔵(入場番号は九四番)が午前七時四〇分頃、右投票所で投票した際、記載所の上にあつた候補者の氏名掲示紙の「無所属千葉盛」なる原告の氏名の「属」と「千」の間に鉛筆で「千」の字よりも小さく「×」のいたずら書きがなされており、その後同投票所で………の各選挙人が投票した際にも、「属」と「千」の間に「×」或は盛の字の上にのいたずら書きがなされていたこと、
(ロ) 右選挙人のうち、入場番号三〇六番の千葉ふくみの投票した時間は午前一〇時から一一時までの間であること
(ハ) ところで午前一〇時三〇分頃、右投票所において選挙事務に従事していた役場吏員の佐藤清六がたまたま階下に降りて行つたところ、原告の息子の千葉道夫から投票記載所の氏名掲示紙の原告の氏名にいたずら書きがなされている旨の抗議があつたので、右佐藤は階下に来ていた村選挙管理委員会書記の後藤正見にその旨を伝えると共に、後藤正見が千葉道夫と話をしている間に一刻も早くいたずら書きを除去すべく直ちに二階の投票所に戻り、記載所の氏名掲示紙を見たところ、第一記載所の氏名掲示紙の「千葉盛」の「千」の字の少し上方に鉛筆で「×」の記入がなされており、また「盛」の字にも鉛筆で「×」の印がなされていたので、同人はそれらの記載を消ゴムで消去したが、なお鉛筆の跡が見えるので、後藤正見が直ぐ右の掲示紙を新しい掲示紙と取り替えたこと、
(ニ) 佐藤清六はその際第一記載所のほか第二ないし第四記載所の氏名掲示紙についても検査をしたが、第一記載所のもの以外には何ら右のような記載はなかつたこと、
(ホ) 右のように氏名掲示紙に「×」印の記入が発見されたので、同投票所の投票管理者である千葉長三郎は直ちに選挙事務従事者及び投票立会人に対し、以後投票記載所を頻繁に点検するよう注意を与え、右事務従事者及び投票立会人らはそれ以後特にいたずら書きの有無に注意して頻繁に点検したが、以後氏名掲示紙についてのいたずら書きはなく、村選挙管理委員会書記の後藤正見が投票終了後記載所の掲示紙を集めた際にも何ら異状はなかつたこと、
がそれぞれ認められる。
ところで前記の証人中、……の各証人は、第二記載所において投票した際その氏名掲示紙に「×」がついていた旨証言するのであるが、証人……の各証言及び前記認定の事実に照して検討すると、右は第一記載所の記憶違いと考えられるし、また証人……の各証言中には「千葉盛」の字が二本の棒線で抹消されていた旨の証言があり、証人……の証言中には、同人が午後五時三〇分頃第二記載所で投票の記載をした際その氏名掲示紙の「千」の字の右に鉛筆で「×」がついていた旨の証言があるけれども、これらの証言はいずれも前記認定の事実に照して措信し難い。
被告は右「×」の記入がなされたのは午前九時三〇分以降である旨主張し、証人佐藤清六は午前九時三〇分頃選挙人千葉権三郎の代理投票補助者となつて同証人が第一記載所で代理投票の記載をした際には、氏名掲示紙に何ら異状はなかつた旨証言するけれども、右証人と共に右代理投票の補助者となつた証人佐藤信男の証言に照しても、右代理投票のなされた記載所が第一記載所であるか否か疑問であるし、証人……の各証言中、同証人らが第一記載所で投票した際には「×」印はなかつた旨の証言も、前記認定の事実に照してみると、記載所についての記憶違いか或は氏名掲示紙に特別の注意を払わなかつたため「×」の記載に気付かなかつたかの何れかと考えられるから、右各証人の証言は前記の認定を左右するに足るものではなく、他に前記(イ)ないし(ホ)の各認定を覆すに足る証拠はない。
(3) 以上認定した事実によると、本件第三投票所の第一記載所の記載台上の候補者の氏名掲示について、午前七時四〇分頃から午前一〇時三〇分過頃まで、当初は「無所属千葉盛」の「属」と「千」の間に「×」印がなされ、その後「盛」の字にも「×」が加わりその記載がなされていたことが認められる。
しかしながら、右「×」印の記載が選挙事務従事者によつてなされたものであることを認めうる証拠はなく、その記載の経過、体裁からみて、選挙人の何びとかが記載したものと推測されるし、本件に顕われた全証拠によるも、選挙事務従事者において、右のような「×」の記載がなされていることを知りながらこれを放置していたものであることは認められず、却つて前記のように右のような記載があることを聞き発見するや直ちにこれが除去につとめてそれを取去つているものであることが認められるのである。
してみれば、本件選挙の執行機関に選挙の管理執行に関する規定違反があつたとはいえないし、選挙事務従事者の行為によつて選挙の自由公正が害されたものということもできないから、前記の事実は本件選挙を無効とする理由はならないものといわなければならない。
(4) のみならず、右「×」印は、その記載からみても、いたずら書きとみられる記載であり、現に右の「×」を見たと証言した各証人も、これをいたずら書きとみているところからすれば、右の記載が選挙人の意思決定に影響を及ぼすようなものとは解されないし、前記各証人の証言によるも、右のいたずら書きのため候補者選択の意思決定に影響があつたとは認められないから、右「×」の記載がなされていたからといつて、これがため選挙の結果に影響を及ぼすおそれがあるということはできない。
(5) しからば、氏名掲示の抹消をもつて本件選挙を無効とする原告のこの点に関する主張は理由がないといわねばならない。(村上武 川名秀雄 伊藤和男)